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8/29、日本租税研究協会主催の「BEPS(註Base Erosion and Profit Shifting,税源浸食と利益移転)に対応するOECDの行動計画とその問題点」と題する講演を聴いてきました。前回に引続き講演の内容をご紹介します。

前回までのおさらい、BEPSの経緯と現状

マスコミは多国籍企業のアグレッシブタックスプランニング(ATP)による節税を問題視し市民団体やNGOは批判し、このような問題の根源は独立企業原則にあるという。このようなATPに対しては国際取引にかかる課税ルールが破綻し国内活動のみを行う企業だけに課税されることになるという観点から、多国籍企業の二重非課税が批判されている。OECDは「企業には株主に対し合法的に節税し利益の最大化を図る責任がある」ことを認めている。

しかし、多国籍企業のアグレッシブタックスプランニング(ATP)を合法的として許容する国際課税ルールやその基礎となる国内法に対する各国の税法とこれらを執行する税務当局に対する国民の信頼が揺らぐ事態を恐れ、BEPS(註Base Erosion and Profit Shifting,税源浸食と利益移転)の議論は国際政治の課題となった。

OECDの「BEPSへの対応」報告書

2013年2月12日OECDは報告書“Addressing Base Erosion and Profit Shifting”を公表した。

報告書の目的

この報告書の目的はBEPSに関する問題を包括的に示すことにある。国際課税ルールの生み出すBEPSの機会と有名な法人ストラクチャー(註表面化したBEPSの事例の事と思われる)を分析し重要な問題点を指摘する。

またBEPS手法の多くは各国税制の境目を利用しているので、単一の国が単独でBEPS問題に対応する事は困難であり、単独で総合調整の無い行動をすると、多重課税のリスクが生じるのでグローバルな投資、成長および雇用にネガティブな影響を生ずるとしている。

BEPS対応行動計画の提案

報告書はBEPS対応に必要な行動を特定し、行動を実施する期限を定め、行動を実施する方法と必要な資源を特定する事を求めた。

この行動計画には以下の項目の開発を提案した。

  • ハイブリッドミスマッチアレンジメント(各国税法を遵守しつつ二重非課税となる状況)の効果をなくす制度
  • 望ましくない結果を生ずる特定の分野に対応するための移転価格税制ルールの改善・明確化
  • デジタル財・サービス分野の課税管轄に関する問題の解決策
  • 租税回避防止策の実効性の向上
  • グループ内部金融取引(註支払の損金控除、源泉徴収)に関するルール
  • 透明性・実質を考慮に入れた有害税制対抗策

またBEPS問題に対応するには全体的アプローチが必要であるとし各国が総合調整を行う事が必要としている。

暫定フォーカスグループ

OECDでは行動計画に関する作業を行う3つの暫定フォーカスグループを設置した。

  • 課税ベース侵食の防止
  • 課税管轄権問題
  • 移転価格

タックスギャップの推計

報告書ではBEPSの規模を推計する事は困難であるとしている。

一方米国では2001課税年度のタックスギャップ約34兆5000億円、英国では2010年度のタックスギャップ約4兆1600億円、EUでは毎年潜在的税収1兆ユーロが失われていると推計している。

日本においてはタックスギャップの集計は行われていないが、BEPSに対する日本の対応の一環としてタックスギャップの集計が必要とと考えられる。

重要な分野の特定

OECD報告書は重要な分野として以下を始めとする14の対象を絞り込んだ。

  • エンティティと証券分類の国際的ミスマッチ
  • デジタル財サービスの提供から生じる利益
  • グループ内金融取引の課税上の取扱い
  • グループ内取引の移転価格
  • 租税回避防止策の実効性ルール
  • 有害な優遇制度の利用可能性

OECDのBEPS対応行動計画策定準備

利害関係者との協議

OECDのCenter for Tax Policy and Administration(CTPA)OECDの経済産業諮問委員会と協議し

  • 課税ルールを見直し国際租税制度への信頼回復の必要性がある事
  • (註法的形式ではなく)「経済的実質」が重要である事
  • デジタル経済にかんする共同作業グループの設置
  • CFCルール(註Controlled Foreign Companyルール、いわゆるタックスヘイブン規制)および利子控除

について合意した。

また、Trade Union Advisory Committe(TUAC)と協議しTUACはOECDのBEPSイニシアティブを支持し、多国籍企業の透明性の強化と脱税のためのデリバティブへの対応をOECDの行動計画に求めた。

また、OECDは多くのNGOと競技を行い、NGOはOECD報告書を強く支持した。

OECD閣僚理事会の決定

OECD閣僚理事会は2013年5月29日~30日、パリ会合でBEPS行動計画の策定方針を決定した。その主要な方針は

  • 包括的行動計画(CAP)とする
  • すべての利害関係者と協議する事
  • 主たる領域に焦点を当てる事
  • 税務長官会議の即時直接行動を行う事

である。

OECDのBPESに関する行動計画

上述の経緯をへてOECDは2013年6月25日~26日の会合でBEPSに関する行動計画を承認し、7月19日~20日G20モスクワ財務大臣中央銀行総裁会議に提出され公表された。

BPESに関する行動計画は第1章序論、第2章背景、第3章行動計画、添付資料A行動と期限の概要から構成されている。

第1章序論

グローバリゼーションが進み企業もグローバルに統合される。また経済のサービス化電子商品の重要性の増加により企業は消費者のいる場所から離れた場所で生産活動を行う事が容易になった。

この様な状況からアグレッシブなタックスポジションをとる多国籍企業が増え、国民が税の公正という問題に敏感になる緊迫した状況が生じすべての関係者にとって重要な問題となっている。

  • 税収の減少と税制に対する信頼の毀損で政府が害を蒙る。
  • BEPSによりその他の特に個人納税者の負担がが相対的に増加する
  • 多国籍企業と国内企業の公正な競争が害される

第2章背景

BEPSは各国の課税ルールギャップや二国間租税条約の適用により、クロスボーダー活動からの所得がどこでも課税されない事により生じる。

またデジタル経済の広がりが問題を提起している。デジタル経済の特徴は無形資産への依存、大量のデーターの利用、無料の商品によって生じる外部性から価値を獲得するビジネスモデルにより価値創造が行われる管轄を決定する事が困難になる。これにより従来の源泉地、居住地という概念や課税目的のための所得の性格を根本的に疑わしいものにしている。

この弱点は従来のコンセンサスベースの国際課税ルールを危険にさらしている。各国が課税ベースを守るためユニテラルな行動をとれば、大量の二重課税が再び出現しグローバルな課税の混沌に陥る事になる。

本行動計画はBEPSへの対応に焦点をあて源泉地国課税と居住地国課税の双方を修復する。ただしこれらの行動はクロスボーダー所得に対する課税権の配分に関する既存の国際基準を変更する事を直接の目的とするものではない。本行動計画は各国にたいし課税権を経済活動によりよく適合させる国内的・国際的な手段を提供するべきである。

第3章行動計画

行動1デジタル経済の課税上の課題への対応

デジタル経済の既存の国際課税ルールにたいる困難さに対応するための詳細な選択肢を開発する。

行動2ハイブリッドミスマッチアレンジメントの効果の否認

ハイブリッド証券やハイブリッド事業体の効果を否認するモデル条約の規定および国内ルールの設計に関する勧告を策定する。

行動3CFCルール(註Controlled Foreign Companyルール、いわゆるタックスヘイブン規制)の強化

CFCルールの設計に関する勧告を策定する。

行動4利子の控除および他の金融上の支払を通じた税務浸食の制限

支払利子の利用および経済的に利子の支払いに相当する他の金融上の支払いの利用による税務浸食を防止するためのルールの設計におけるベストプラクティスに関する勧告を策定する。

行動5透明性と実質を考慮に入れて有害な税の慣行に、より効果的に対抗する

(税務行政の)透明性の改善を優先して有害な税の慣行に関する作業を改善する。既存の枠組にOECD非加盟国を関与させて、既存の枠組みの修正または追加を検討する。所得の配分をその所得を生じる経済活動とより整合させる国内・国際課税ルールに修正する。

行動6条約濫用の防止

租税条約は二重非課税を生じるさせるために利用される事を意図していない事を明確にし、不適切な状況で条約の恩典を与える事を防止するためのモデル条約の規定の策定と国内ルールの設計に関する勧告を策定する。

行動7PE認定の人為的回避の防止

BEPSに関するPE認定の人為的回避を防止するためPEの定義の変更を策定する。関連する利益の帰属の問題にも対応する。

現行制度の不備に対処するには無形資産、リスクおよび過大資本について特別な措置が必要となる。

行動8無形資産

グループ内で無形資産を移転する事によって生ずるBEPSを防止するルールを策定する。

行動9リスクと資本

グループ内でリスクの移転または過大資本の配分によって生ずるBEPSを防止するルールを策定する。

ある事業体が契約上リスクを負うとか資本を提供しているという事だけを理由に不適切な利益がこの事業体に帰属することが無い事を確保するための移転価格ルールまたは特別措置を策定する事が含まれる。

他のハイリスク取引

第三者間では発生しないか非常に稀な取引への関与によって生ずるBEPSを防止するルールを策定する。

行動11BEPSに関するデータの収集・分析方法とBEPS対応行動の確立

BEPSの規模と経済的影響の指標に関する勧告を策定し、継続的にBEPSに対処するために取れれた行動の実効性と経済的影響を監視・評価するためためのツールを確保する。

行動12納税者にアグレッシブタックスプランニングアレンジメントの報告を要求

アグレッシブまたはアビューシブな取引、アレンジメント、またはストラクチャーの義務的開示ルールの設計に関する勧告を策定する。

重要な問題は納税者と税務当局の情報の非対称性である。これは独立企業原則の執行を潜在的に阻害しBEPSの機会を高める。多国籍企業グループにおいてサービスその他の取引について他のメンバーが果たしている関連機能について税務当局情報を入手できるようにする事が重要である。

行動13移転価格文書化の再検討

法令遵守のコストを考慮に入れて租税当局にとって透明性を向上させるための移転価格文書化に関するルールを策定する。

行動14紛争解決メカニズムの実効性の向上

各国が相互協議手続により条約関連紛争の解決を妨げる障害に対処するための解決策を策定する。

行動15多国間協定の開発

多国間協定の開発に関連する税法および国際公法の問題を分析する。この分析により国際租税問題への革新的なアプローチを提供するために設計された多国間協定を開発する。

おわりに

過去の経緯や各当事者の立場を押さえる事により、BEPSに対応計画の問題意識がおぼろげながら浮かび上がったという感想です。この稿は終わりますが、別の所でもう少し思うところを述べる予定です。

研究の余地がまだまだある分野だと思います。読者の皆様のご意見ご感想をお待ちしております。

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