8/29、日本租税研究協会主催の「BEPS(註Base Erosion and Profit Shifting,税源浸食と利益移転)に対応するOECDの行動計画とその問題点」と題する講演を聴いてきました。前回に引続き講演の内容をご紹介します。
ATPに対する各当事者の反応
いわゆる新自由主義者の見解
米国2000年共和党政権のときに「税の競争」を阻止するOECDの動きを拒否したが、それを後押ししたロビーストのDaniel J. Mitcehllも近時のOECDに改めて反対の立場をとっている。
また、下に述べるApple社の見解を支持している
ATPにより批判された企業の見解
2013年5月21日の米国上院本土安全保障・政府問題委員会政府小委員会(PSI)は公聴会でApple社のATPを追及したがAppleCEO,Tim Cookは
- Appleは支払うべき税を払っており、税法と税法の精神を遵守している
- Appleは米国に多額の納税をしている
- 米国は国外所得に合理的な税制を導入すべきである
- 米国の法人税率を引下げるべきである
このようにATPを用いる多国籍企業としては当然ながら現行の各国税制、租税条約および国際的コンセンサスを得た国際課税ルール(OECDモデル条約等)を厳密遵守しているという立場である。
ATPに反対する立場からのOECD批判
Sol PicciottoはOECDに対して
- OECDは多国籍企業が租税を回避する事を許容する誤ったアプローチを無批判に自ら追及してきた
- OECDは租税実務会・租税仲介業者(租税回避スキームの開発者である大手国際会計事務所・弁護士事務所)と密接な人的関係を保っている
- これらの国際会計事務所がOECD会議等のスポンサーとして数億ドル寄付している
- ATPを許容するenablers(註,租税回避の導管となる国家、スイス、アイルランド、ベネルクス3国、これらはOECD加盟国でもある)の存在
- 「税の競争」
- これらに影響下で発展してきたOECDモデル条約をはじめとする「国際課税ルール」
として、これらのOECDの状況が問題の根源であると批判している。
OECDに対しては有名コラムニストLeeSeppardはATPの構造的な問題を防止する方法として
- OECDモデル条約に署名するな
- OECDモデル条約を始めとする「国際課税ルール」は利益の抜取り国、顧客の居る国すべてから所得を剥ぎ取ることを許容しているナンセンスの塊である
- OECDは主に米国と英国の利益を保護している。OECDのルール制定権は誰が握っているのか
- OECDモデル条約のPE(恒久的施設)概念が問題
- タックスヘイブンとの租税条約に署名するな
- タックスヘイブンとの租税条約には「切替条項」がないと両落ち(double non-taxation註両方の国で課税されない)が起こる
マスコミのATP批判
課税当局は守秘義務がありATPの問題はマスコミによって明らかになってきた。
日本では長者番付や法人税の納付状況の公表が無くなり日本の多国籍企業の納税状況を公開データーでする事はできないため、欧米の様に批判が起こる機会が無い。
政治レベルのアクション
ATPが明るみになると一般国民の税制や税務行政への信頼が著しく損なわれる。
政治も国民の公然たる非難の声に反応せざるを得ない。多国籍企業と税務仲介者の合法的ATPにたいする各国議会も対応を始めている。
米国では上でのべたPSIが、英国では下院pbulic accounts委員会が、欧州閣僚理事会、欧州議会、欧州委員会が対応を始めた。
次回以降の記事
長くなりましたので、以降の講演については次回の記事で御紹介いたします。
主要な論点は
- OECEのBEPSの概要
について御紹介する予定です。
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