平成26年3月20日に税制関連法案が国会で可決成立しました。成立した法律についてご紹介するべきなのですが。まだ改正間もないため、引き続き税制改正大綱についてご紹介します。大綱からの大きな変更点はないはずです。
国際課税
前回から引続き平成26年度税制改正大綱についてご紹介します。今回は税制改正大綱後半の「追加して決定する事項・国際課税」についてです。
今回の国際課税の改正により、OECDモデル条約と国内法規との整合が図られました。それに伴い、海外にPEを有する内国法人の外国税額控除限度額の算出にあたり、「内部取引」「支払利子控除制限」「文書化」などの対応が必要となります。以下概要をご紹介します。
OECDモデル条約との整合性確保
平成26年度改正はOECDモデル条約や帰属主義をとる諸外国と整合性をとるとともに、国際的二重課税の排除を目的としています。それに伴い以下のような概念が導入されます。
総合主義から帰属主義への変更
外国法人に対する課税原則について、いわゆる「総合主義」に基づく従来の国内法を、2010年改訂後のOECDモデル租税条約に沿った「帰属主義」に見直す(平成26年度税制改正の大綱P98より)。
と、されました。外国法人が日本に恒久的施設(PE)を有する場合、全ての国内源泉所得に対して課税されます(総合主義)(法人税法141条)が、これが外国法人のPEに帰属する所得を課税対象とする帰属主義に変更されます。
PEに帰属する所得のOECD承認アプローチ(AOA)による算出
PE帰属所得は、外国法人のPEが本店等から分離・独立した企業であると擬制した場合に当該PEに帰せられるべき所得とする。(平成26年度税制改正の大綱P99より)。
とされます。このPEをあたかも独立した企業に擬制して所得を算出するアプローチはOECDモデル条約第7条で採用されています(<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」July―2006>P19等が参考になります)。このOECDにより承認されたアプローチ(AOA)をわが国でも採用する事となりました。
内部取引の識別
PE帰属所得の算定においては、外国法人のPEと本店等との間の内部取引について、移転価格税制と同様に、独立企業間価格に基づく損益を認識する。(平成26年度税制改正の大綱P99より)
とされました。AOAアプローチに伴いPEとその外国本社との間の取引をあたかも独立企業間の取引であるかのように擬制し内部取引を所得計算に織り込みます(<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」July―2006>P19,20等が参考になります)。
PE帰属資本と支払利子控除制限
PEが本店等から分離・独立した企業であると擬制した場合に帰せられるべき資本(以下「PE帰属資本」という。)をPEに配賦する。
また、外国法人のPEの自己資本相当額がPE帰属資本の額に満たない場合には、外国法人のPEにおける支払利子総額のうち、その満たない部分に対応する金額について、PE帰属所得の計算上、損金の額に算入しない。
(平成26年度税制改正の大綱P99より)。
とされました。PE帰属資本は
- 資本配賦アプローチ
- 過小資本アプローチ
のいずれかで計算されます。また
ただし、選択した方法は、特段の事情がない限り、継続して適用する。
とされました。(平成26年度税制改正の大綱P114,115より)。
PE帰属所得の算出もAOAに沿った方法となります。セーフハーバーアプローチについては明示されていませんが「銀行又は証券業を営むPEに帰せられる一定の負債利子の損金算入」(平成26年度税制改正の大綱P115)において
外国法人の規制上の自己資本のうちに負債に該当するものがある場合には、規制上の自己資本とされる負債につき当該外国法人が支払った利子のうち、上記(4) ②(注、過小資本アプローチ)によりPE帰属資本の額に応じてPEに配賦した金額は、PE帰属所得の計算上、損金の額に算入する。
とされ、金融機関については「セーフハーバーアプローチ」的考え方も導入されています。以上の議論について(<財務省財務総合政策研究所「フィナンシャル・レビュー」July―2006>P20等が参考になります)。
以上、PEに対して過少資本税制的な取り扱いが導入されます。
外国法人に対する外国税額控除
日本国内にPEを有する外国法人に対して帰属主義による所得計算と課税を行う事となります。日本のPE帰属海外源泉所得に対して外国税額を納付している場合、二重課税となる事から
外国法人のPEのための外国税額控除制度を創設する。(平成26年度税制改正の大綱P99より)
とされました。
内国法人への影響
以上、OECDモデル条約の概念が国内法規に導入された事に伴い内国法人の海外PEに対する課税関係も変更されます。
内国法人の国外源泉所得の定義
内国法人の外税控除限度額(法人税法69条、法人税法施行令142条)の基礎となる国外源泉所得が改定されました。従前は国内源泉所得以外を国外源泉所得としていましたが、税制改正により
国内源泉所得以外の所得とされている国外源泉所得の範囲について、内国法人が国外に有するPEに帰せられる所得(以下「国外PE帰属所得」という。)、国外資産の運用保有所得、国外資産の譲渡所得、外国法人の発行する債券の利子及び外国法人から受ける配当等、積極的に定めることとする(平成26年度税制改正の大綱P119より)。
とされます。
内部取引の導入
国外PE帰属所得の計算については、独立企業間価格による内部取引を勘案する等、原則として上記一4の外国法人のPE帰属所得の計算に準じて行う(平成26年度税制改正の大綱P119より)。
とされました。海外にPEを有する内国法人はPEを独立企業に擬制し独立企業間価格で内部取引を計算しPEに帰属する所得を計算する必要があります。
支払利子控除制限の取扱い
支払利子控除制限については
国外PEで計上された支払利子総額のうち、国外PEの自己資本相当額が国外PEが本店等から分離・独立した企業であると擬制した場合に帰せられるべき資本(以下「国外PE帰属資本」という。)の額に満たない部分に対応する金額について、国外PE帰属所得に加算する(平成26年度税制改正の大綱P119より)。
とされ、海外源泉所得を増加させる事ができます。海外源泉所得が増加すると海外源泉所得割合が増加し外国税額控除限度額も増加できます。ただし、
この取扱いは、確定申告書に計算明細を添付する等の要件を満たす場合に限り、適用する
とされます。
文書化
上記の通り海外PEにたいしても独立企業原則が適用され、移転価格税制・過少資本税制に近い趣旨の取扱いが行われます。それに伴い
- 外国税額控除の適用を受けようとする場合には、国外PE帰属所得の算定に関し、(中略)書類を作成し、税務当局からの求めがあった場合には遅滞なく提示し、又は提出しなければならない。
- 国外PE帰属所得の算定においては、本店等で行う事業と国外PEで行う事業に共通する費用の国外PEへの配賦計算に関する書類を作成しなければならない。
(平成26年度税制改正の大綱P121より)
とされ、文書化が規定されました。
追加して決定する税制改正(納税環境・関税)について次回ご紹介します
追加して決定する事項・国際課税関連の概要をご紹介しました。追加する税制改正・納税環境・関税関連以降については引続き次回の記事でご紹介します。
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春日渡辺会計事務所は文京区の会計士、税理士事務所です。春日渡辺会計事務所では国際課税をはじめとする会計・税務に関するご相談をお受けしております。
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