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本日8/29、日本租税研究協会主催の「BEPS(註Base Erosion and Profit Shifting,税源浸食と利益移転)に対応するOECDの行動計画とその問題点」と題する講演を聴いてきました。最近NHKの番組でも取り上げられましたが先進国と新興国の間で課税所得の奪い合いとも言える状況が問題となっています。実は急に発生したものではなく古くて新しい問題でした。今日の講演では過去の経緯、それぞれの当事者の立場、それらが絡み合って生じている論点、それらを踏まえたOECDとしての行動計画が解説されました。国際税務の最新のトピックの一端を垣間見ることができて興味深い講演でしたので当ブログで御紹介します。

米国政府の姿勢の変遷

米国政府のBEPSに対する姿勢は時々の政権の政治姿勢に左右されてきました。カーター政権下でIRS国際課税特別委員会のリチャードゴードンが「タックスヘイブンの調査報告書」を財務省・司法省に提出しタックスヘイブン規制の機運が高まりましたが、レーガン政権ではこれを黙殺し、逆に外国人に対する利子非課税制度(IBF)を導入しました。IBFにより米国自らタックスヘイブン政策をとりました。

その後レーガン・ブッシュ政権からクリントン政権に交代すると、米国はOECDの「有害な税の慣行」に対するイニシアティブを強く支持し、ブッシュ政権はこれを拒否しました。

米国の態度は政権交代ごとに変遷し国際的な動向に大きく影響してきたのであり、これからも米国政府の態度の変遷が起きる潜在的可能性がある。

学術研究の議論の変遷

2000年代には多国籍企業のアグレッシブタックスプランニング(ATP)と各国政府の「税の競争」が始まっている事が指摘され始めました(HarryGrubertなど)。

一方OECDのイニシアティブのオフショア金融センター(OFC)に対する要求が多国籍企業の利益を損ねるという議論があり、他方「英米こそタックスヘイブンである」(Marshall J. Langer)、という反論があり、2008年ころにタックスヘイブン対策の再検討が必要であるという議論が起こった(Avi-YonahRobert T. Kudrle)。

別の切り口としてATPとコーポレートガバナンスの問題として論じられることも増えている。また、倫理、道徳、企業の社会的責任の見地から論じられる場面も増えている。

OECDのATPへの対応

OECDは多国籍企業の国家間二重課税を排除するために租税条約(DTT)のモデル作りを行ってきた。このDTTがゼロタックススキームによる抜け穴(Loopholes)を生じるツールとなる。OECDはATPによる「国際的二重非課税」としてBEPSの手法ととらえ、BESPに対するプロジェクトを開始した。現在(2013.7)11の作業部会が15の行動計画を分担している。

アグレッシブタックスプランニング(ATP)の定義の議論

すべての国に共有されたATPの定義は実はない。EUにおいてもない。OECDにおいてもない。

現状は既存の租税回避行為対策規定(GAAR)での「税の濫用」「法の濫用」「権利の濫用」「法的アレンジメントの濫用」「税法の濫用」「実質主義」などの概念を利用するしかない。

欧州委員会でのATPの定義の議論

「法の精神と意図に反するが合法的なアレンジメントを通じて租税回避をすること」という定義が欧州委員会の勧告に含まれる。

OECDでのATPの定義の議論

OECDでは以下の2つの分野をATPと呼んでいるという見解がある(EFS)

  • 筋を通しているが意図せざる予期しない税収減少の結果を生じる税務上のポジションを取るプランニング
  • 納税申告書の重要な事項が税法に一致するかどうかが不確実であることを開示せずに納税者に有利な税務上のポジションをとること

なお、OECDは一国ベースでの規制強化はこれまで構築してきた2重課税排除に反するという警戒感があり多国間の枠組みを目指していると考えられる。

英国におけるATPの議論

キャメロン首相は議会やダボス会議でATPを道徳性、CSR、倫理上の問題とする演説を行った。

なお、英国では議会の働きかけでATPの問題が明るみに出たが租税制度への信頼を損なう事態として政策的に取り上げられた経緯がある。

派生的話題としてATPの膨大な情報を収集しているICIJというジャーナリスト団体の影響力がクローズアップされている。課税当局は守秘義務がありATPの問題を明らかにする事はないが、ICIJにより政治問題化する場面が増えている。

租税公正ネットワーク(TJN)におけるATPの議論

TIJでイスラエルの判例を紹介しATPを議論している論文がある。

それによると、タックスプランニング(TP)自体は正当な権利であるが他の権利同様、衝突する他の権利や利益の均衡が必要で制限に正当な理由がある。

イスラエルでは脱税または違法な租税回避を目的とするTPは税法違反である。また合法的手段を利用する租税回避を行うTPは全体として違法となる事がある。その違法と合法(legitimate)の区分は困難で、この問題のために2004年にイスラエル税務当局はATP委員会を設置した。

日本における訳語の混乱

ATPに対する各国の議論で使われる概念を翻訳する際に混乱があり注意するする必要がある。

Aggressive(筆者註,強引・積極的(必ずしも違法ではない)) tax planningとAbusive(濫用) tax planningが共に「濫用的租税回避」と翻訳されている事があるが、ATPがAbusiveかどうか判断した上でAbusiveであれば否認するという米国やOECDの議論のたてつけからすると、両者を厳密に区別する必要がある。

次回以降の記事

長くなりましたので、以降の講演については次回の記事で御紹介いたします。

主要な論点は

  • OECDとさまざまな当事者間の議論
  • OECEのBEPSの概要

について御紹介する予定です。

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