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日経新聞の記事に日本版IFRSを取りまとめるという記事が載っていました。最近はIFRSも話題に上る機会も減り、私自身も最近の議論をアップデートできていないところもあるのですが、会計士・税理士らしいブログ記事もたまには書いた方が良いので思うところを書いてみます。

IFRSがなぜ盛り上がらない(らなかった)か?

日経新聞ではシステム投資の負担を理由にしていますがそこは本質的な問題ではないと思います。企業側で必要性やメリットを見出せていないという事が大きいというのが私の感触です。資料はすぐ出せませんが無借金の日本の上場企業の割合が過去最高という記事を読んだ覚えがあります。日本の上場企業は新規の資金調達する必要性が全体として低調なんだろうと思います。義務化される事が決まってから考えようか位のところでしょう。

アメリカも腰が引けてきたというのも影響が大きいでしょう。これまで金融庁の態度はアメリカのFASBの様子を見ながら方針を決めてきたという面が確かにあり、近年アメリカがIFRSに距離を置き始めたという点もあるのでしょう。

後個人的なイメージですが、数年前にIFRSが盛り上がった際に、会計士や学者や関係省庁が若干大げさにIFRSを喧伝した反動があると思います。昔大手監査法人に在籍したころ、法人は商売っ気全開にしてIFRSの営業をしようとしていました。今にして思うと下心を出しすぎてIFRS自体にネガティブな印象をもたれてしまった面もあるのかもしれません。リーマンショク後アンチグローバリゼーションの主張の中でIFRSがグローバリゼーションのアイコン的扱いをされたこともありました。

「日本版IFRS」は失敗する

私はたくさんの日本企業が「日本版IFRS」を採用し、海外を含む投資家が「日本版IFRS」で作られた決算財務報告を活用し日本企業に投資する、という成果を作ることは難しいと思います。

上で述べたようにIFRSに対するニーズが不十分で多少ハードルを下げても採用するメリットが少ないからです。また原理的に「日本版IFRS」はIFRSではないからです。またここ十数年の「会計ビッグバン」で日本基準とIFRSは相当近似していて更に「日本版IFRS」を作っても混乱するだけでしょう。要するに中途半端なのです。

「日本版IFRS」はIFRSではない!?

日経新聞でも当たり前のように「日本版」と記載していますが、そもそもIFRSはローカリゼーションを認めていません。仮に「日本版IFRS」で決算財務報告書を作ったとしてもその決算書をIFRS準拠とうたう事自体IFRSに違反します(IAS1.16)。IFRS的には「日本版」なるものは現在の日本基準による決算書と同じ扱いになります。IFRSをうたいたいならIFRSに完全準拠するしかないのです。

IFRSの設定主体は国際会計基準機構(IASB)ですが金融庁がIASに「日本版IFRS」をIFRSの一部と認めさせるように話をつけたとは日経新聞に書いてありません。おそらくそこまで話はついていないのではないでしょうか。これくらいの基本の話はもちろん金融庁や関係者も解っているはずです。それでもあえて「日本版」を進める意図は何でしょうか?「エンドースメント」という言葉で取り繕っていますが、金融庁としては日本の会計基準の設定主体は自分たちだという思いとIFRSという看板は欲しいという処での苦肉の策でしょう。またその他にも思惑はある様な気がします。

いずれにしてもIFRSとうたえない、IFRS基準を作る意味、それを使う意味はないでしょう。必要ならIFRSに完全準拠すれば良いのです。

日本基準がIFRSかは投資判断に影響するのか?

現在の日本の会計基準は相当程度IFRSに近似しています。少なくとも私はそう思います。それは日経新聞の言うように「のれんの償却」とか「金融商品の公正価値」とか個別の論点に差異はあります。またIFRSで開示される定性的情報(企業の中身を説明する文章の情報)の構成はかなり違います。

しかしIFRSの想定しているような機関投資家は決算財務報告書だけを見て投資判断をしているわけではないでしょう。様々な判断材料の一つでしかない決算財務報告書の個々の論点での差異が大きく影響を与えるケースは実は小さいとも考えられます。その意味で日本基準とIFRSの差異が投資意思決定に与える影響は実は限定的なのではと私は思っています。その差が本当に問題になるのであれば「日本版(なんちゃって)IFRS」ではなくIFRSを採用する方が素直な対応でしょう。

二匹目のドジョウは居るのか?

上で関係者の意図の理解に苦しむという事を述べましたが、IFRSに商売っ気を出したい人たちが居るのではないでしょうか。というのは数年前の内部統制監査制度(JSOX)を煽りに煽って名前を売った学者さんや、一山あてたコンサルタントや監査法人や会計士たちがいたからです。彼らの次の目標がIFRSであり、私も含めIFRSを売り込もうとしていたのです。

ここから先は完全に想像の世界です。その後IFRSが盛り下がりましたが、IFRSでもう一山当てたいと思っている人たちが「日本版」を作ろうと考えたのではないかと勘繰ってしまいます。(もし違うのならお詫びします。)

その様な下心で制度をつくっても関係者は混乱するだけでしょう。

柔軟な運用で対応するべき

日経新聞によるとIFRSは100カ国以上で採用されています。ではその100カ国でまったく画一的硬直的にIFRSをしているかというと決してそんなことはないはずです。もともとIFRSには「客観性より合目的性(企業公正価値の開示)を重視する」、「原則主義(大きい方針を示し細部は企業実態をもっともしる経営者の判断で決める)」という考え方があり、主観や裁量の余地が大きいのです。

私はIFRSを導入するなら「なんちゃて」IFRSではなく普通のIFRSを導入した上で、IFRSの裁量や主観の余地が大きい考え方生かして、柔軟な運用で対応するのが無理がないと考えます。そういう懐の深さがIFRSの良さなのかもしれません。あるいは今までのように日本基準のコンバージョンを進めて日本基準として海外投資家にも受け入れてもらえるようにしてゆくべきでしょう。

この件では色々な議論があるようで、その辺アップデートしてまた次の機会で議論したいと思います。


最後に、IFRSにご関心の皆様はぜひ春日渡辺会計事務所までご連絡下さい。ご意見ご質問等お待ちしております。

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